掃除英雄伝説チューラパンタカ台本

昔昔、それは今から2500年ぐらい前のお話。この日本から遠い国、インドでのお話。そこには、いろんな悩みを超えることができたお釈迦様という方がおられました。お釈迦様のそばには、いつのまにやらたくさんの人々が集まっていました。そのなかにパンタカ兄弟がいました。お兄さんはマハーパンタカ。弟はチューラパンタカ。お兄さんのマハーパンタカは大変頭がよく、お釈迦様が言われることをすぐに理解し、他の人々からも大変尊敬されていました。弟のチューダパンタカはもの覚えが悪く、どれぐらい物覚えが悪いかと言うと・・・自分の名前も忘れてしまうほどでした。ですからお釈迦様がお話をされても、ひとつ覚えればまたひとつ忘れ、ひとつ覚えればひとつ忘れと言われたことすべてを忘れていくのです。

 まわりからは馬鹿にされ、お釈迦様のいう事も覚えれない・・。お兄さんのマハーパンタカからも

「お前がここにいるのはふさわしくないから帰れ」

と言われる。

「はあーー。昔からばかだったけど、ここにくればお釈迦様がなんとかしてくれるっていうから来たけれど・・・、お釈迦様のいう事がおぼえらんないんだもん。無理だよな―――。お兄ちゃんからは無理だから帰れって言われるし・・・、家に帰ろうかな・」

チューラパンタカが泣きながら家に帰ろうとすると

「チューラパンタカよどうしたのだ。」

後ろを振り返るとお釈迦様が

「あっお釈迦様・・・・」

「どうした」

「じつは、かくかくしかじかでお家に帰りたいと思います。」

「そうか・・・。でもなチューラパンタカよ。私の教えは何も頭のいい人ばかりが分かるような教えではないぞ。お前だからこそわかる方法がある。チューラパンタカよ。箒と塵取りを持ってきて毎日毎日掃除をするがいい。その時にな「塵を払い、垢を除かん」と言いながら掃除をするのじゃ。いいか、毎日怠らずにするのじゃぞ。」

「わかりましたお釈迦様」

その日から毎日毎日チューラパンタカは掃除を始めました。

「塵を払い垢を除かん。塵を払い垢を除かん」

何日も何か月も続けました。その様子を見る他の弟子たちは

「いよいよお釈迦様も見放したようだ。掃除ばかりやらせて、お釈迦様もうまいことを言うもんだ。」

と、チューラパンタカを見ては嘲り笑います。それでも

「塵を払い垢を除かん。塵を払い垢を除かん」

と掃除を続けるチューラパンタカ。月日は流れて3年がたちました。いつものように掃除を続けるチューラパンタカでしたがこの日は少し様子がおかしいのです。

「お釈迦様に言われてもう3年たつけど、これが一体何になっているのだろう。ほかのみんなからは笑いものにされるし。お釈迦様は何故わたしにこんなことをさせたんだ。きっと私はお釈迦様から見放されたんだ。わたしが悟りを開くという事は到底不可能なことだったんだ。もう・・帰ろう。」

チューラパンタカが掃除をやめ、帰ろうと振り向いたその時、掃いたところに何枚かの葉っぱが落ちている。

「あっ、掃いたばっかりなのにまた葉っぱが落ちてる。あーまた掃除をしなきゃ。なんで葉っぱが落ちてくるかな。落ちてこなければ掃除をしなくてすむのに・・・。」

と言うとチューラパンタカはハッとしました。

「そうか。掃除は一回すれば終わりではない。掃いた後にはまたすぐ塵が積もり、埃がたまる。きれいになったと安心して掃除をしなければ、塵や埃はたまり続ける。だから掃除をし続けなければならないんだ。こころもそうなんだ。今日はいい話聞いたな、いいことしたなと思っていても、すぐに何かあれば怒り、見返りを求める心が起こってくる。お釈迦様はこのことを伝えたかったんだ。ありがとうございますお釈迦様。塵を払い垢を除かん。塵を払い垢を除かん。」

するとそこへお釈迦様があらわれました。

「チューラパンタカよ。今日はうれしそうに掃除をしているな。何かあったのか。」

「はいお釈迦様。あなたがなぜ私に掃除をし続けろと言ったのか、やっとわかりました。」

「そうかわかってくれたか。チューラパンタカよ、お前は私のよき友である。」

「お釈迦様。持ったないお言葉ありがとうございます。」

その日からというものチューラパンタカはニコニコしながら掃除しました。その様子を見た他のお弟子が、

「チューラパンタカさん。あんたうれしそうにいているがなんかあったのかい?」

「はい!お釈迦様のおっしゃりたいことがやっとわかったのです。そのことをお釈迦様に伝えると、よき友と言ってくれました。」

「おーそうかい。どんなことがわかったんだい。」

「それはね、掃除は一回すれば終わりではない、掃除を続けなければまた塵や埃がたまるように、こころもまた掃いても掃いても塵はたまっていくのが人間のこころなんだ。だからこころの掃除を続けなければならないということだったんだ。塵を払い垢を除かん。」

「それは素晴らしいじゃないか。また今度話を聞かせてくれ。」

お釈迦様からよき友といわれたチューラパンタカの噂は瞬く間に広まり、たくさんな人々が彼に質問をしました。しかしながらもともと物覚えの悪いチューラパンタカです。質問をされても返す言葉は

「塵を除き垢を除かん」

の一辺倒。質問する方も毎回同じ答えが返ってくるので飽きてきてしまいました。

「結局はその程度のやつよ」

町の人々はまたチューラパンタカを馬鹿にしました。

 ある日の事、お釈迦様が遠い町へお話をしに行く予定だったのですが、急用ができ行けなくなりました。お釈迦様が来られるのを待ち望んでいた町の人たちはがっかりしましたが、

「一番信頼するパンタカを代わりに派遣します。」

とのお釈迦様からの伝言があり人々は安心しました。

「あの有名なパンタカさんが来て下さるんだってよ。お弟子の中でも頭よくって切れ者だって噂だよ。」

人々が期待したのは同じパンタカでもお兄さんのマハーパンタカだったのです。さて、予定の日が参りました。町の人は今か今かと待っております。そこへ現れましたのが、マハーパンタカではなく、弟のチューラパンタカだったのです。町の人々はがっかりしました。この町にもチューラパンタカの物覚えの悪い噂は広まっていたからです。チューラパンタカはそんなことは知りません。お釈迦様の代わりと言われて、緊張しながらもうれしそうに右手には箒、左手には塵取りを持ってニコニコして登場しました。町の人々はその姿を見てにやにや笑いました。

「きっとあの話をするに違いない。」

するとチューラパンタカは左手をあげて

「塵を払いー」

といった瞬間、

「垢を除かんー」

と町の人々が先に言ってしまったのです。自分の言いたいことを先にいわれてしまいチューラパンタカはあわてふためいています。その様子を見て人々は腹を抱えて笑いました。

「がはははは」

すると・・・大きく口を開けていた人々の口がふさがりません。

「あががががが」

どういうことでしょうか。何が起こったのかわかりません。

そこへ今日はこれないと言われていたお釈迦様が現れました。

「皆の者よ。何故このチューラパンタカを笑うのだ。彼は素晴らしいことに気づいた私のよき友である。お前たちはチューラパンタカより自分たちが優れているとでも思ったのであろう。たしかにお前たちの方が物覚えがいいのかもしれない。知識があるのかもしれない。だがな、こころには人を見下し、馬鹿にするというこころの垢がたまっておる。しかもそのことにお前たちは気づいてはおらん。その報いを今お前たちは受けているのだ。おのれのこころにふりそそぐ塵や垢はなかなか取り除けるものではない。風呂へ入ってもまた次の日には垢がたまるように、人間のこころというものはそれほど弱いものなのだ。チューラパンタカは自分の弱いこころの部分に気づいた私のよき友である。」

そういうと、人々の開いていた口は元に戻りました。町の人々は大事なことを気づかせてくれたお釈迦様とチューラパンタカにお礼を申し上げました。

saikohji
  • saikohji

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