龍王と金翅鳥と悪人と
今度の紙芝居用に、菩薩本生経龍品を翻訳しました。
菩薩本縁經龍品第八
菩薩摩訶薩 處瞋猶持戒
況生於人中 而當不堅持
如我曾聞。菩薩往昔以恚因縁墮於龍中。受三毒身。所謂氣毒見毒觸毒。其身雜色如七寶聚。光明自照不假日月。才貌長大氣如韛風。其目照朗如雙日出。常爲無量諸龍所遶。
自化其身而爲人像。與諸龍女共相娯樂。住毘陀山幽邃之處。多諸林木華果茂盛甚可愛樂。有諸池水八味具足。常在其中遊止受樂。經歴無量百千萬歳。
時金翅鳥爲飮食故。乘空束身飛來欲取。當其來時諸山碎泉池枯涸。爾時諸龍及諸龍女。見聞是事心大恐怖。所服瓔珞華香服飾。尋悉解落裂在其地。諸龍夫人恐怖墮涙而作是言。
今此大怨已來逼身。其𭪿金剛多所破壞當如之何。
龍便答曰卿依我後。時諸婦女尋即相與來依附龍。龍復念言
今此婦女各生恐怖我若不能作擁護者。何用如是殊大之身。我今此身爲諸龍主。若不能護何用王爲。行正法者悉捨身命以擁護他。是金翅鳥之王有大威徳。其力難堪除我一身餘無能禦。我今要當捨其身命以救諸龍。
爾時龍王語金翅鳥。
汝金翅鳥小復留神聽我所説。汝於我所常生怨害。然我於汝都無惡心。我以宿業受是大身禀得三毒。雖有是力未曾於他而生惡心。我今自忖審其氣力。足能與汝共相抗禦。亦能遠炎大火投乾草木。五穀臨熟遇天惡雹。或變大身遮蔽日月。或變小身入藕絲孔。亦壞大地作於江海。亦震山嶽能令動搖。亦能避走遠去令汝不見我。今所以不委去者。多有諸龍來依附我。所以不與汝戰諍者。由我於汝不生惡故。
金翅鳥言。
我與汝怨。何故於我不生惡心。
龍王答言。
我雖獸 身善解業報。審知少惡報逐不置猶如形影不相捨離。我今與汝所以倶生如是惡家。悉由先世集惡業故。我今常於汝所生慈愍心。汝應深思如來所説
非以怨心 能息怨憎
唯以忍辱 然後乃滅
譬如大火投之乾薪。其炎轉更倍常増多。以瞋報瞋亦復如是。
時金翅鳥聞是語已怨心即息。復向龍王説如是言。
我今於汝常生怨心。然汝於我乃生慈心。
龍王答言。
我先與汝倶受佛語。我常憶持抱在心懷。而汝忘失了不憶念。
金翅鳥言。
唯願仁者爲我和上。善爲我説無上之法。我從今始惠施一切諸龍無畏。
説是語已即捨龍宮。還本住處。
爾時龍王遣金翅鳥還本處已。慰喩諸龍及諸婦女。
汝見金翅生怖畏不。其餘衆生覩見汝時。亦復如是生大怖畏。如汝諸龍愛惜身命。一切衆生亦復如是。當觀自身以喩彼身。是故應生大慈之心。以我修集慈心因縁故。令怨憎還其本處。流轉生死所可恃怙無過慈心。夫慈心者除重煩惱之妙藥也。慈是無量生死飢餓之妙食也。我等往昔以失慈心故。今來墮此畜生之中。若以修慈爲門戸者。一切煩惱不能得入。生天人中及正解脱。慈爲良乘更無過者。
諸龍婦女聞是語已。遠離恚毒修集慈心。爾時龍王自見同輩。悉修慈心歡喜自慶。
善哉我今所作已辦。我雖業因生畜生中。而得修行大士之業。
爾時龍王復向諸龍而作是言。
已爲汝等作善事竟。爲已示汝正眞之道。復爲汝等然正法炬閉諸惡道開人天路。汝已除棄無量惡毒以上甘露。補置其處欲請一事。汝等當知於十二月前十五日。閻浮提人以八戒水洗浴其身。心作清淨爲人天道而作資糧。遠離憍慢貢高貪欲瞋恚愚癡。我亦如是欲効彼人受八戒齋法。汝當知之。若能受持如是八戒。雖無妙服而能得洗浴。雖無墻壁能遮怨賊。雖無父母而有貴姓。離諸瓔珞身自莊嚴。雖無珍寶巨富無量。雖無車馬亦名大乘。不依橋津而度惡道。受八戒者功徳如是。汝今當知吾於處處常受持之。
諸龍各言。
云何名爲八戒齋法。
龍王答言。
八戒齋者。一者不殺二者不盜三者不婬四者不妄語五者不飮酒六者不坐臥高廣床上七者不著香華瓔珞以香塗身八者不作倡伎樂不往觀聽。如是八事莊嚴不過中食。是則名爲八戒齋法。
諸龍問言。
我等若當離王少時命不得存。今欲増長無上正法熾然法燈請奉所勅。佛法之益無處不可。何故不於此中受持。亦曾聞有在家之人得修善法。若在家中行善法者亦得増長。何必要當求於靜處。
龍王答言。
欲處諸欲心無暫停。見諸妙色則發過去愛欲之心。譬如濕地雨易成泥。見諸妙色發過去欲心亦復如是。若住深山則不見色。若不見色則欲心不發。
諸龍問言。
若處深山則得増長是正法者當隨意行。
爾時龍王即將諸龍至寂靜處。遠離婬欲瞋恚之心。於諸衆生増修大慈具足忍辱以自莊嚴。開菩提道自受八戒。清淨持齋經歴多日。斷食身羸甚大飢渇疲極眠睡。龍王修行如是八戒具足忍辱。於諸衆生心無害想。
時有惡人至龍住處。龍眠睡中聞有行聲即便驚寤。時諸惡人見已心驚喜相謂曰。
是何寶聚從地湧出。
龍見諸人心即生念。
我爲修徳來至此間。而此山間復有惡逆破修徳者。若令彼人見我眞形則當怖死。怖死之後我則毀壞修行正法。我於往昔以瞋因縁受是龍身。三毒具足氣見觸毒如是。諸人今來至此。必貪我身斷絶壽命。
時諸惡人復相謂曰。
我等入山經歴多年求覓財利。未曾得見如是龍身文彩莊嚴悦可人目。剥取其皮以獻我王者可得重賞。
時諸惡人尋以利刀剥取其皮。龍王爾時心常利樂一切世間。即於是人生慈愍想。以行慈故三毒即滅。復自勸喩慰其心。
汝今不應念惜此身。汝雖復欲多年擁護。而對至時不可得免。如是諸人今爲我身貪其賞貨當墮地獄。我寧自死終不令彼現身受苦。
諸人尋前執刀㓟剥。龍復思惟
若人無罪有人支解。默受不報不生怨結。當知是人爲大正士。若於父母兄弟妻子生默忍者此不足貴。若於怨中生默受心此乃爲貴。是故我今爲衆生故。應當默然而忍受之。若我於彼生忍受者。乃爲眞伴我之知識。是故我今應於是人生父母想。我於往昔雖無量世故捨身命。初未曾得爲一衆生。彼人若念剥此皮已。當得無量珍寶重貨。願我來世常與是人無量法財。
爾時龍王既被剥已。遍體血出苦痛難忍。擧身戰動不能自持。爾時多有無量小蟲。聞其血香悉來集聚唼食其肉。龍王復念今此小蟲食我身者。
願於來世當與法食。菩薩摩訶薩行尸波羅蜜時。乃至剥皮食肉都不生怨。況復餘處也
菩薩本縁經卷2下
菩薩本縁経龍品第八
すぐれた菩薩が 憎しみの世界で戒を保ち まして人の世に生まれ どうして保たないことがあろうか
私はこのように聞いた。菩薩が昔瞋恚の因縁で龍として生まれてた。三毒を身に受け、気毒・見毒・触毒といった。体は七宝のように輝き、光明は自ずと照らし太陽や月の比ではない。才覚容貌は大気の様に大きく、鞴のようだ。その目は朗らかに二つの太陽が出ているかのように照らしている。常におおくの龍の住処を照らしている。
自らはその身を人の姿と化し、龍女達と娯楽を楽しみながら、毘陀山の静かなところで過ごしていた。多くの木々には華や果実が実り、池の水は八味であり、常にその中で楽しんで身心を休めていた。無量の時が流れていた。
ある時、ガルーダが食事を取ろうと、飛来してきた。すると自然は破壊され池の水は枯れてしまった。そして、龍や龍如達は恐れおののき、身に着けていた飾りや華はことごとく地に落ちた。龍の夫人達は、恐怖で涙を流しながら言った。
「今恐怖でかたみがせまいのです。ガルーダの嘴は金剛で、多くの箇所が破壊されています。いったいどうすればいいのでしょうか。」
龍王はすぐに私を頼りとせよと答え、夫人達は、すぐに龍と共にやってきた。龍王はまた念を押して言った。
「今この婦人方は恐れおののいておられる。もし私が守ることができないなら、この身分でいることはできない。私は龍の主である。守らないようならば王と言えようか。まことの道を歩む者は、悉く身命をすてて守らねばならん。ガルーダの王は猛々しい。その力は私一人の力でふさぐことは甚だ難しい。私は今、身命を捨ててそなた達をすくう。」
そして、龍王はガルーダの元に言った。
「ガルーダよ。私の言う事を聞け。そなたは、龍族のすみかで害をなしているが、私はそなたに悪心はない。私は三毒の業を背負っているから龍として生まれてきた。しかし、他者に対して悪心が生まれたことは無い。私は今、自分の気力をつまびらかに推し量ると、そなたに抗うことが出来る。巨大な炎で草木を乾かすことが出来る。熟れた五穀に雹を降らすことが出来る。巨大化し太陽や月を遮ることが出来る。微小化し蓮糸の孔に入ることが出来る。大地を壊し海川とすることが出来る。山を震わせ揺り動かすことが出来る。走ればそなたは私に追いつくことが出来ない。ここを去らない理由は、他の龍達がいるからだ。そなたと争わない理由は。私の心に悪心が生まれないからだ。」
ガルーダは言った。
「私とそなたは敵対関係にある。何故悪心を起こさぬ。」
龍王は答えた。
「私は獣の身とはいえ、業の報いと理解している。悪の報いが影のごとく離れることないことを知るべきなのだ。私は今、そなたと共に同じ濁りの世に生まれたのは、悉く前世の悪業の為だ。私は、常に慈悲の心をそなたに注いでいる。そなたも、如来の説くことを深く思うがよい。
怨みもたず、怨みを抑え、忍辱をもって怨みを滅ぼす
例えば乾いた薪に火を投げたら、その炎はどんどん燃え広がるだろう。怒りもまた同じである。」
ガルーダは、これを聞くと怨み心を抑えた。そして龍王に言った。
「私は今そなたに怨み心を抱いていた。しかし、そなたは私に慈しみの心を抱いていた。」
龍王は答えた
「私はそなたより先に仏陀の言葉を聞くことが出来ただけだ。私は常に教えを大切にしている。そなたもよく心に留めなければ忘れてしまうだろう。」
ガルーダは言った。
「どうか私の師となって、無上の法を説いてくれ。私は今すぐに龍達の恐れを取り除こう。」
言うと、たちまちに龍宮を放棄し、住処に帰った。
龍王がガルーダを住処に還すと、諸々の龍、龍女はこころ安らいだ。
「そなたらはガルーダを見ても恐れを抱かなくなった。他の衆生も同じようにそなたらを恐れていた。そなたらは命を惜しんでいた。一切衆生も同じだ。彼を見習って己も学ぶべきだ。大慈悲心を生むべきだ。私は慈悲心の為の行を修めたことで、怨憎を抑え込むことが出来た。迷いの連鎖においては、この上ない慈悲心を頼りとすべきだ。その心は、重き煩悩の病の妙薬となる。その慈しみは飢えた心の妙食となる。我は昔、慈悲心を失くしたので、いま畜生にいる。もし慈悲を修めたならば。すべての煩悩はなくなる。解脱をすることができる。慈悲より優れたものは無い。」
諸々の龍や龍如達はこの話を聞いて、瞋恚を離れ慈悲を修めた。その時、龍王はこの姿を見て喜んだ。
「善いかな。私の為すことは終わった。私は畜生に生まれたとはいえ、修行を行うことができた。」
その時、龍王は龍達に告げた。
「そなたらは等しく善を成し遂げた。まことの道を歩んでいる。諸悪の道を閉じ人天の道が開く。そなた達は、悪を捨て甘露に上った。そこに留まりたいと思うならば、そなたらは知るべきだ。子の満月の夜、人間世界の人は八戒水でその身を洗っている。心は清浄で、人天を歩み、糧としている。三毒を離れている。私もこのようにありたいと八戒斎を受けた。そなたらは知るべきだ。もし、八戒を保つことが出来たら、法衣はなくとも身を洗うことが出来る。障壁が無くとも、賊を防ぐことが出来る。父母が尊いうまれではなくとも、なることが出来る。飾りが無くとも自らが荘厳となる。目ぼしい宝は無くとも計り知れない冨を得る。馬車が無くとも大乗に乗り、橋は無くとも悪道を渡る。八戒の功徳はこのようなものである。そなたらもこれを受けよう。」
龍達は各々言った。
「八戒斎とは何ですか」
龍王は答えた。
「八戒斎とは、一には殺さず、二には盗まず、三には浮気をせず、四には嘘をつかず、五には酒を飲まず、六には広い所で寝ず、七には飾らず、八には楽し気な事を離れる。これらを行い、午後からは食事を取らない。これらを八戒斎という。」
龍達は言った。
「いずれ王がここを去る時に我らは未だに教えに出あっていません。今無上の正法法灯を得たく、教えを聞きたいのです。仏法の益はどこにもありません。何故ここに無いのでしょうか。在家で法を修めた者がいると聞きます。在家の者でも行ずれば増長を得ることができるならば、必ずしも静所でなくてもよいのでしょうか」
龍王は答えた。
「欲に陥れば煩悩は留まることはない。そこにいれば愛欲の心が起きるばかりだ。例えば湿地に雨が降ると泥になることがたやすいようなものだ。欲する心もまたそうだ。深い山に入れば見ることはない。見なければ欲は起きまい。」
龍達は言った
「深山で意の通りに行を修め、正法を得たいです」
その時、龍王はすぐに龍達を寂静に連れて行った。三毒を離れた。衆生も自ずと荘厳され、忍辱を保ち、大慈悲を起こした。悟りへの道が開かれ、八戒を授かった。清浄は永らく保たれた。食を断ち、身はやつれ飢えや渇きのきわみにあり、疲れで横たわった。龍王の八戒の行はこのようなものである。他の衆生に害する心が生まれなかった。
ある時悪人が龍の住処にやってきた。龍は眠っていたが、音がしたので驚いて起きた。その時悪人は龍の様子を見て言った。
「何故、宝玉が大地からあふれ出ているのだ」
龍が悪人の心を読み、どうにかしたいと考えるようになった。
「私は徳を修めるためにここにいる。この山に邪魔な悪逆で行を破る者がいる。もし彼らが我の真の姿を見たならば死を恐れよう。死を恐れたら我らの正法の行を破壊するだろう。私は過去の瞋恚の因縁で龍として生まれている。気毒、見毒、触毒の三毒である。彼らはここに来てしまった。彼らの貪りは必ずや我が身を滅ぼすであろう」
その時、悪人たちはまた顔を見合わせて言った。
「我らは長年山に入って財を求めてばかリいた。未だこのような美しい龍を見たことがない。その皮を剥ぎ取って我が王に献上すれば最高の褒美が得られるだろう。」
その時に、悪人は皮を剥ぎ取ろうと刀を抜いた。龍王はその時心に常にすべての利について考えていた。そしてこれらの人を慈しみ憐れんだ。この慈悲の行によって三毒を滅しようと決意し、己を奮い立たせた。
「この身が惜しいとは思わぬ。長い間守ろうとしても、いつまでも免れることは出来ぬであろう。これらの人々は報いにより地獄に落ちるであろう。私は自ら死を選ぶことで彼らに苦を受けないようにしよう」
悪人達は皮を剥ぎ取り始めた。龍は考えた。
「この人に罪が及ばないようにするには、バラバラにされようとも。ただ黙して恨みつらみを生じないことだ。これをまことを為すひとというのだ。もし父母兄弟妻子から黙忍をしてもそれは貴いことではない。怨みの中で黙して受け入れるならばこれを貴きというのだ。だから私は衆生の為にこれを為すのだ。これを忍という。もし私が彼らのおかげで忍が生じたならば、それはまことの輩で善知識と言えるだろう。だから私は今彼らを父母の様に想う。私は輪廻を繰り返してきたが、いまだ一衆生の為にこれをすることはなかった。彼らが皮を剥ぎ取り、これで珍しい宝や財宝を得ることが出来ると思うならば、願わくば私は来世常にこの人に無量の仏法という財宝を与えたい。」
その時龍王の皮が剥ぎ取り終わった。体中から血が出て、苦痛に耐えていた。体中が震え、動くことが出来なかった。その時、無量の虫たちが集ってきた。血の匂いに引き付けられ、肉を食べていた。龍王はこの様子に気づいて思った。
「願わくば来世で仏法という食べ物を与えよう。」
菩薩の行を死ぬまで続けた。皮が剥ぎ取られ、肉を食べられようとも怨みを生ずることはなかった。他の世でもそうであったことはいうまでもない。