賀茂の焼餅由来の物語

とある昔、正算という僧侶が比叡山で修行をしていた。懸命に修行に励んでいたが、平民出身の正算は、貴族出身の人々がどんどん出世をしていくことに違和感を覚え、修行を怠けるようになった。
一方、比叡山から見えるところに住んでいた正算の母は常に息子を心配していた。時々差し入れもした。ところが病気となり1年程差し入れができなかった。病気が治り、久方ぶりに差し入れをして、それが正算の元に届けられた。そこには、正算の好きな焼餅が入っている。食べようとして、一個を遣いの者に分けると遣いのものは涙をこぼしながら「これはいただけない」という。訳を聞くと、母が病気で稼ぎもなく、仕送りをする際に、自分の髪を切りそれを売ったお金で焼餅を仕入れた。その苦労を思うといただけないとのことだった。焼餅の入っていた包には母からの手紙が添えてあった。そこには、病気の時に差し入れができなかったことへの詫びが書かれていた。
正算は母の苦労を知り、また修行に励むようになったという。

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