下天
2025年10月27日
織田信長の最後の名場面、焼け落ちる本能寺の中で敦盛を舞う。
「人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度生をうけ滅せぬ者のあるべきか」
(人の一生はせいぜい五〇年、天界の時間にくらべれば夢のように儚いものです。この世に生を受け、滅びないものなどないのです。)
織田信長が好んだとされる幸若舞『敦盛』の一説です。この中に「下天」と出てきます。
下天とは、天界なかでも一番下の天のことです。仏教においても天の世界がありますが、キリスト教の天国とは違い、人間よりかはいい世界だけれども、上に行けば後は落ちる苦しみが待っている世界で、まだ迷いの世界です。
下天の一日は人間界の五〇年であり、その下天の長さで寿命は五〇〇年あるとされています。人間の一生は、天人においては、一晩の夢に過ぎないのです。
また、冒頭の幸若舞には続きがあり、
「これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」
(これをさとりへの縁としなければ、なんともったいないことであろうか)
と、実は仏教へ誘う言葉だったのです。