下天

 織田信長の最後の名場面、焼け落ちる本能寺の中で(あつ)(もり)を舞う。

「人間五十年 下天(げてん)の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度生をうけ滅せぬ者のあるべきか」

(人の一生はせいぜい五〇年、天界の時間にくらべれば夢のように儚いものです。この世に生を受け、滅びないものなどないのです。)

織田信長が好んだとされる(こう)(わか)(まい)(あつ)(もり)』の一説です。この中に「下天(げてん)」と出てきます。

 下天(げてん)とは、天界(てんかい)なかでも一番下の天のことです。仏教(ぶっきょう)においても天の世界がありますが、キリスト教の天国とは違い、人間よりかはいい世界だけれども、上に行けば後は落ちる苦しみが待っている世界で、まだ迷いの世界です。

 下天(げてん)の一日は人間界の五〇年であり、その下天(げてん)の長さで寿命は五〇〇年あるとされています。人間の一生は、天人においては、一晩の夢に過ぎないのです。

 また、冒頭の(こう)(わか)(まい)には続きがあり、

「これを菩提(ぼだい)の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」

(これをさとりへの縁としなければ、なんともったいないことであろうか)

と、実は仏教へ誘う言葉だったのです。

saikohji
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