一着の汚くも清浄な衣

昔々、貧乏な夫婦がいた。どれぐらい貧乏かというと、一着の衣を夫婦で共有して暮らしていた。片方が来ているときは片方が裸なのだ。
或る時、妻が仏に布施をしたいと夫に願いでた。すると、うちは貧乏だからなにも布施をするものがない。と答えるとこの衣を布施しましょうと言った。
夫は衣を施すと我らの衣服はどうなる。死んでしまうぞというと、妻が

 人生には死があります。施さなくても死があります。ならば、施しをして仏法という恵みをいただきましょう。

と伝えると夫は納得をし衣を布施した。
 仏がそれを受け取り、人の集まるときにその衣を身に着けていた。みんなは思った。なぜ仏はこんな汚い衣を身に着けているのであろうと。それを察して仏は言った。

 こんなにも清浄な衣を見たことがない。その理由は云々である。

と答えると皆は自らを恥ずかしく思った。或る者はこの夫婦に衣を提供したそうな。

賢愚経に説かれるひとつの物語である

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です